釧路地方裁判所帯広支部 昭和54年(ワ)24号 判決 1981年7月31日
原告
三浦順子
被告
岡和田邦男
ほか一名
主文
一 被告らは、それぞれ原告に対し、各金二三〇万五三六七円及び内金二一五万五三六七円に対する昭和五一年九月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その七を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告らは、それぞれ原告に対し、各金三四四万五三一一円及び内金二八九万五〇一〇円に対する昭和五一年九月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言。
(被告ら)
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(請求原因)
一 事故の発生
昭和五一年九月一五日午後五時三五分ころ、原告が帯広市西五条南二四丁目二番地先の道路を東から西に向つて横断していたところ、右道路を北から南へ走行して来た訴外岡和田敏幸(以下、「訴外敏幸」という。)運転の自動二輪車(以下、「加害車」という。)が原告に衝突した。
二 責任原因
訴外敏幸は、本件加害車を所有するものであるから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故による原告の後記人的損害を賠償すべき義務がある。
三 受傷の程度
1 原告は、本件事故により、頭部外傷、顔面右後頭部挫創、右大腿骨骨折の傷害を受け、
2 昭和五一年九月一五日から昭和五二年八月一〇日までと昭和五三年三月一五日から同月二八日までの合計三三七日間、帯広市所在の森末整形外科に入院し、
3 右入院期間中、受傷個所をギブスで固定されたため、食事や用便をすることができず、母である三浦伊美子の附添看護を受け、
4 更に、昭和五二年八月一一日から昭和五三年三月一四日までと昭和五三年三月二九日から同年七月二三日までの合計三五六日間通院加療(実治療日数六八日間)したが、
5 顔面鼻下に長さ三センチメートルの傷一個、右目上部に長さ二センチメートルの傷二個及び長さ一・七センチメートルの傷一個を残して症状が固定した。
四 損害
原告は、本件事故により、右のように入・通院治療を余儀なくされ、後遺障害が残ることとなつたが、これによる損害は次のとおりである。
1 治療費 金一八一万三〇四〇円
2 附添看護料 金六七万四〇〇〇円
3 入院雑費 金一六万八五〇〇円
4 通院交通費 金一万六三二〇円
5 慰藉料
(一) 入・通院による慰藉料 金二二三万三〇〇〇円
本件受傷により右第三項の2及び4の入院と通院を余儀なくされた原告の精神的苦痛を慰藉するには、右の金額が相当である。
(二) 後遺障害による慰藉料 金六二七万円
原告は、本件事故当時満八歳の健康な女子であつたところ、本件事故により、右第三項の5の後遺障害が残つた。これは、自賠法施行令別表の後遺障害等級表の七級の一二に該当するので、これによる原告の精神的苦痛を慰藉するには、右の金額が相当である。
6 原告の過失
本件事故現場は、横断歩道から一四・九メートルの位置にあり、右現場を横断していた原告にも過失があつたと認めざるを得ない。その過失割合は、訴外敏幸七〇パーセント、原告三〇パーセントとするのが相当である。よつて、右1ないし5の合計額の三〇パーセントを減額されてもやむを得ない。
7 弁護士費用 金一一〇万六〇二円
原告は、本件訴訟の提起と追行を弁護士に委任し、手数料及び報酬としてそれぞれ五五万三〇一円の支払を約した。
8 損害の填補 金二〇三万二三八二円
原告は、訴外敏幸から治療費として一八一万三〇四〇円及びその他の名義で二一万九三四二円の支払を受けた。
9 合計 金六八九万六二二円
訴外敏幸が賠償すべき損害額は、右1ないし5の各損害項目の金額を合算した金一一一七万四八六〇円から三〇パーセントを減じた金額に右7の金額を加えて右8の金額を減じた金六八九万六二二円となる。
五 訴外敏幸は、昭和五四年六月二二日死亡した。被告らは、同人の父母であり、ほかに同人の相続人はいない。
よつて、原告は、被告らに対し、各金三四四万五三一一円及び内金二八九万五〇一〇円に対する本件事故発生の日である昭和五一年九月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(認否)
一 請求原因第一項の事実は認める。
二 同第二項の事実は認める。
三1 同第三項の1、2、4の事実は認める。
2 同項の3の事実は否認する。
3 同項の5の事実は知らない。
四1 同第四項の1、3、8の事実は認める。
2 同項の2の事実は否認する。
3 同項の4の事実は知らない。
4 同項の5の(一)、(二)は争う。
5 同項の6の事実は認めるが、過失相殺率を争う。
6 同項の7の事実のうち、原告が本件訴訟の提起と追行を弁護士に委任したことは認めるが、その余は知らない。
7 同項の9は争う。
五 同第五項の事実は認める。
(抗弁)
本件事故現場は、その北方の交通整理の行われている交差点に設置された横断歩道から一四・九メートルの位置にあるところ、訴外敏幸は、右交差点の北方で信号待ちをした後、前方の信号が青となつて発進し、本件交差点を渡つて稲田通り方向に南進していたところ、原告が右事故現場を左から右に横断しようとしたため、これに衝突したものであり、原告が横断を開始した時点における右横断歩道上の信号機の表示は赤色であつた。したがつて、本件事故の発生につき、原告にも過失があつたというべきであるから、相当額の過失相殺をすべきである。
(認否)
本件事故現場は、その北方の交通整理の行われている交差点に設置された横断歩道から一四・九メートルの位置にあること及び原告が横断を開始した時点における右横断歩道上の信号の表示が赤色であつたことは認め、その余は知らない。過失相殺率は原告主張のとおりとすべきである。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因第一項(事故の発生)及び同第二項(責任原因)の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、訴外敏幸は、本件事故による原告の人的損害につき賠償責任がある。
二 そこで、原告の損害につき検討するに、請求原因第三項の1(受傷の部位と内容)、2(入院期間)及び3(通院期間)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがなく(計算すると、入院及び通院の期間とそれらの日数とは一致しないが、入院及び通院の日数についても当事者間に争いがない。)、成立に争いのない甲第三号証(以下に挙示する書証は、すべて成立に争いがない。)原告本人尋問の結果によると、原告は、手術を施行して右下腿をギブスで固定したため、右入院期間中、食事や用便などに介助が必要であるとの医師の判断により、母である三浦伊美子が病院に泊り込んで附添看護をしたことが認められる。
そして、甲第四、第六号証及び鑑定の結果を総合すると、原告の顔面には<ア>眉間部に二センチメートルの線状痕、<イ>右前頭部から右眉毛にかけ一・八センチメートルの線状痕(この内〇・八センチメートルが眉毛に隠れている。)、<ウ>右上口唇に二・五センチメートルの線状痕があること、これらの線状痕には、色素沈着と瘢痕拘縮は認められず、その症状は固定していることが認められ、その障害の程度は、自賠法施行令別表の後遺障害等級表の第七級の一二に相当すると認められる。
以上の事実を前提にして損害額を算出すると次のとおりとなる。
1 治療費 金一八一万三〇四〇円(当事者間に争いがない。)
2 附添看護料 金六七万四〇〇〇円
右認定事実によれば一日につき金二〇〇〇円とするのが相当である。
3 入院雑費 金一六万八五〇〇円(当事者間に争いがない。)
4 通院交通費 金一万六三二〇円(甲第五号証)
5 慰藉料 金七九〇万円
前記当事者間に争いのない本件事故の態様、受傷の程度、入院・通院の期間と日数、右認定の後遺障害の程度、内容並びに記録上明らかな原告の年齢その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情を考慮すると、本件事故により原告の被つた精神的苦痛を慰藉するのに相当な損害賠償額は金七九〇万円とするのが相当である。
6 弁護士費用 金五〇万円
原告が弁護士に本件訴訟の提起と追行を委任したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、その費用及び報酬として合計一一〇万六〇二円の支払を約していることが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易度及び請求認容額などに鑑み、弁護士費用は、金五〇万円をもつて、本件交通事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
7 過失相殺
本件事故現場は、その北方の交通整理の行われている交差点に設置された横断歩道から一四・九メートルの位置にあること及び原告が横断を開始した時点における右横断歩道上の信号の表示が赤色であつたことはいずれも当事者間に争いがないから、原告は、本件道路を横断するに当たり、右横断歩道によつて、かつ、信号に従つて横断すべきところ、漫然とこれを怠つた過失があつたというべきであり、この過失は被害者の過失として、原告の損害額を算定するに際し、斟酌するのが相当であるところ、原告の過失の態様にその年齢(当時満八歳)及び甲第二号証、乙第一、第三号証により認められる次の各事実、すなわち、本件事故現場付近は、市街地商店街、住宅街であり、事故当時は夕方で人・車とも交通量が多く、歩道上には買物客もいたこと、訴外敏幸は、右交差点の前方に停車中の車両があつて、右車両によつて前方の見通しが妨げられていたのであるから、右車両の右側方を通過して前へ出ようとするときは、減速して前方を充分注視して右車両の前方の安全を確認してから進行すべきであつたのにこれを怠り、前方の安全確認をしないまま、漫然右車両の右側方を通過して進行したため、折から右車両の前方を左から右に横断中の原告の発見が遅れたためこれに衝突したことなどを併せ斟酌すると、右過失による減額の割合は四〇パーセントとするのが相当である。
8 損害の填補 金二〇三万二三八二円(当事者間に争いがない。)
9 合計 金四六一万七三四円
訴外敏幸が原告に対して支払うべき本件事故に基づく損害賠償額は、人的損害の内容をなす右1ないし6の各損害項目の金額から各四〇パーセントを減じた金額を合算した金六六四万三一一六円から右8の損害填補金二〇三万二三八二円を控除した残金四六一万七三四円となる。
三 そして、訴外敏幸が昭和五四年六月二二日死亡したこと、被告らがその父母であり、ほかに同人の相続人はいないことは当事者間に争いがない。
そうであるとすると、被告らは、それぞれ原告に対し、本件事故による損害賠償として、各金二三〇万五三六七円を支払う義務がある。
四 以上の次第であるから、原告の被告らに対する本訴請求は、被告らに対しそれぞれ、各金二三〇万五三六七円及び内金二一五万五三六七円に対する本件事故発生の日(不法行為日)である昭和五一年九月一五日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邊等)